アラビカ種を知ろう
コーヒーを植物という面から理解してもっとコーヒーの世界を広げようという試み。2回目の今回は『アラビカ種』についてです。過去記事(コーヒーの植物学1)で、コーヒーノキ属の中の2品種について紹介しました。ざっと振り返ると
- アラビカ種:香り、酸味に優れている
- カネフォラ種:苦味が強い、風味はそれほどでもない。インスタントコーヒー、缶コーヒーなどに使われる
ということでしたが、世界的にコーヒーの主流になっているアラビカ種について調べてみました。
アラビカ種の植物としての特徴
ではアラビカ種だけ持つ特徴としてを見てみましょう。
1.染色体の数が44本
アラビカ種はコーヒーノキ属の中でただ一種染色体の数が他の品種と異なり44本の染色体を持っています。他のコーヒーノキは22本です。
生物ごとに染色体数はバラバラで豚、猫は38本、
アヒルは80本。
ちなみに人間は46本でアラビカ種と2本差、惜しいですね笑
染色体というのは
染色体:遺伝情報が詰まったDNAが折り畳められた物質。親から子に受け継がれる遺伝情報が収められている。
2.自家受粉できる
もうひとつアラビカ種が他のコーヒーノキ属の品種と異なるのは自家受粉できることです。
自家受粉とは、「同じ花」や「同じ株」からの花粉で受粉し、受精が成立して種子を作る仕組みのことをいいます。植物の中には雌しべと雄しべが同じ花にある種があり、このような種は花が咲くと雄しべの花粉が同一花の雌しべにふりかかり受粉し、受精します。自家受粉する植物では、ヒトや、虫、鳥類の助けは必要ありません。
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要するにアラビカ種は1本の木さえあれば繁殖できるということですね。
コーヒーがアフリカから中南米、アジアへ伝わる過程では1〜数本の木を盗み出して新たな土地で栽培したりということもありました。
まさに自家受粉が可能なアラビカ種ならではですね。
他に自家受粉が可能な植物は
イネ、ほうれん草、レタス、トマト、ムギなど、結構あります。
アラビカ種の発祥
染色体の話も出てきたところでコーヒーノキ属の中でアラビカ種がどのように誕生したか述べていきます。
1.アラビカ種の親品種
1990年代からの遺伝子解析の結果、
アラビカ種は近縁種の異種交配で誕生したことが分かっています。
遺伝上の親品種となるのが本記事の冒頭でも触れた
『カネフォラ種』
それともう1種が
『ユーゲニオイデス種』
です。
ユーゲニオイデス種!?
ほとんどの方が 何だそりゃ、、、となると思います。
ユーゲニオイデス種:タンザニア西部の標高1000〜2000mの高地に自生するコーヒーの1品種。自家受粉はできない。現地ではコーヒーとして飲むこともある。 カフェイン含有量が少なく(0.3〜0.8%)低カフェインコーヒーの開発用として注目されている。 他品種のカフェイン含有量 アラビカ種:1.2% カネフォラ種:2.4%
このユーゲニオイデス種、実は年々注目度を増しているようで、コロンビアの一部で商業栽培されています。さらにWBCというバリスタの世界大会で2021年はトップ3に入ったバリスタが全てユーゲニオイデス種のコーヒー豆を使っていたそうです。
焙煎したユーゲニオイデス種のコーヒー豆は苦味、酸味は少なく。
飴玉のような、甘味料のような、とにかく非常に強い甘味を持ち
低カフェインどころではない強烈な個性のある品種みたいです。
ユーゲニオイデス種のコーヒー生豆かぁ
いつか手に入れてみたいものです。
2.アラビカ種の誕生
アラビカ種は現在のウガンダとコンゴの間にあるアルバート湖周辺でカネフォラ種とユーゲニオイデス種が異種交配しアラビカ種の祖先が誕生しました。
それが今から数十万年前のことです。
2種は元々それぞれ生息域が異なります。
カネフォラ種:西〜中央アフリカ、標高は低めで雨が多い地域
ユーゲニオイデス種:中央アフリカ高地、やや乾燥した地域
ところがある地域だけ生息地が重なっていました。それがアルバート湖周辺だったんです。
誕生したアラビカ種の祖先はその後、氷河期という困難を潜り抜け主にエチオピア西南部で自生していきます。それが現在のアラビカ種となります。
終わりに
コーヒーノキ属の中でも植物としてはアラビカ種だけが際立った個性を持っていることがわかりますね。
アラビカ種だけが持つ特徴として
- 染色体が倍の44本
- 自家受粉できる
アラビカ種は
- カネフォラ種とユーゲニオイデス種の
異種交配でアルバート湖周辺で生まれ、エチオピア西南部に自生するようになった
このあと偶然にも人間に発見され、また人間によってコーヒーベルト内の各国に移植されていくことになります。
そして直近では遺伝的な親となるユーゲニオイデス種がコーヒー業界で新たに注目を集めているのが驚きでした。
コーヒーの植物学また次回もお付き合いください!
参考:且部幸博「コーヒーの科学」,講談社,2016年2月
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